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文部科学省「産学官連携戦略展開事業」シンポジウム
-共同研究におけるソフトウェア著作権の取り扱いと柔軟な契約交渉事例- 開催報告
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2010年3月18日に学術総合センター一橋記念講堂にて、文部科学省「産学官連携戦略展開事業」シンポジウム-共同研究におけるソフトウェア著作権の取り扱いと柔軟な契約交渉事例-を九州工業大学との共催で開催しました。シンポジウムでは、267名の方のご参加を頂き、また、267名の内124名が企業の方と、多くの企業からもご参加頂きました。
本シンポジウムでは、2009年度に電通大が開催した2つの研究会「著作権を考慮した共同研究契約に関する研究会」(通称:著作権研究会)、「柔軟且つ合理的な共同研究契約交渉を進めるための参考事例集の整備に関する研究会」(通称:事例集研究会)の成果と、九州工業大学が開催した「ソフトウェア著作権研究会」の成果をご報告させて頂きました。
ソフトウェアの著作権、共同研究契約交渉では多くの課題がありますが、今回のシンポジウムが産学官連携の発展につながりますことを願っております。
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【シンポジウム内容】
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「共同研究におけるソフトウェア著作権の取扱いと柔軟な契約交渉事例」
-研究成果たる著作権をどう扱うべきか?-
-大学と企業はなぜもめるのか?-
日時:2010年3月18日(木) 13:30~17:30 *プログラム
場所:学術総合センター 一橋記念講堂
主催:電気通信大学 共催:九州工業大学 |
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【1.開会挨拶】
電気通信大学 理事 産学官連携センター長 三木 哲也
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大学において、これまで、知的財産の取り扱いは特許が主であったが、近年ではソフトウェアが関係する場合が多くなってきている。電気通信大学では、戦略展開事業で文部科学省から支援を受け、ソフトウェアを対象として産学官連携の活動を行っている。電気通信大学では、非常に多くのソフトウェアが生み出されているが、それらの多くは埋もれてしまうことが多いのが現状である。共同研究の中でソフトウェアを扱い、活用するためには、ソフトウェアの扱い方について本格的に議論する必要があるため、産学官連携のテーマとしてソフトウェアを挙げ、戦略展開事業の支援を受けている。
このシンポジウムでは、九州工業大学との共催で開催し、電気通信大学が開催した著作権研究会、事例集研究会、九州工業大学が開催した著作権研究会の活動を主に報告する。
本日は多くの企業の方を含む200名以上の参加を頂いている。企業の方からも多くの意見を頂き、シンポジウムが実りあるものとなることを願っている。
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文部科学省 研究振興局 研究環境・産業連携課長 柳 孝氏
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社会・経済のグローバル化が進み、知の大競争時代となっており、世界主要国ではイノベーション創出を成長戦略のキーとしている。我が国では、科学技術主導型で、大学で生まれた成果を重要視する。また文部科学省では、産学連携が展開について分岐点に立っていると認識している。
産学連携の取り組みを振り返ると、昭和62年の地域共同研究センターから20年、TLO法制定から10年、国立大学法人化から6年がそれぞれ経過した。また、平成15年から行っている産学官連携支援は7年目である。現在の戦略展開事業は、平成24年までで、それ以降の進め方・あり方を議論すべき時期にきている。
政府としては、昨年12月に策定された「新成長戦略(基本方針)~輝きのある日本へ~」の最終とりまとめを6月頃までに行うことになっており、我々としては、産学官連携の今後の展開として、次の3つのポイント、1.産学双方にいかにメリットがあるか、2.今後の大きなジャンプアップにどう備えていくか、3.国民の理解をどう得るか、について議論している。1については、基礎研究の段階から産学競争の場、知のプラットフォーム作りを行い、知の循環を促すことが重要である。2については、イノベーションエコシステムの確立、大学間のネットワーク構築、研究支援システムの構築が必要である。3は各省との連携と取り組みの情報開示と大きな成功例の提示が重要である。
本日のシンポジウムは、著作権を考慮した共同研究契約の検討、知的財産取り扱い事例等、産学双方にメリットとなるための取り組みである。シンポジウム参加者にとって、一層の発展の契機となることを願う。
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【2.国立大学法人の第1期を振り返って】
電気通信大学 学長 梶谷 誠
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2010年3月末で6カ年の第1中期目標計画が終了する。事業仕分けで国立大学法人が対象となったことから、国立大学法人の在り方の検討が必要である。
国立大学法人法第22条では、国立大学法人の業務について、1.国立大学の設置と運営、2.学生への支援、3.学外との連携、4.学外への学習機会の提供、5.研究成果の普及・活用の促進、6.研究成果を活用する事業への出資、7.以上の各業務、とされており、これまでの大学の規程とは異なる。これまでの大学の使命は、教育・研究を行うことが主であったが、現在の法律にはその記載がない。
一般の方には国立大学法人を独立行政法人と思われている場合がある。独立採算制になったことで、「産学連携や特許によって利益を得たい」と考えられてしまっている場合があるが、それは誤解である。
大学の使命は、人を作る、知を作ることを通して社会に貢献することである。大学が教育・研究を行うのは社会のためである。そして社会と相互作用するために産学連携を行う必要がある。孤立無援で取り組んでいても駄目である。産業の使命、大学の使命、官の使命はそれぞれ異なる。それぞれが使命を果たすためには、それぞれがコミュニケーションをとって連携しなければならない。そうすることで、特許、大学ベンチャー、共同研究の各問題に対する答えが自ずと出てくると思っている。
特許を保有している大学は研究能力を持っているという保証である。特許は大学のメリットを持つために必要であり、特許が共同研究を行うきっかけにもなる。
電気通信大学のソフトウェア事業には多くの皆様からのご支援を頂いていることを改めて感謝する。大学としてもこの事業を支援し、成果が出るよう進めて参りたい。
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【第1部 大学におけるソフトウェア等の著作権の取扱いについて】
【3.報 告1 「著作権研究会の取り組み」】 ( 資料PDF)
電気通信大学 産学官連携センター 特任教授 本間 高弘
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著作権を考慮した共同研究契約雛形のための研究会を今年度下期から行った(研究会4回、ワーキング3回)。研究会の成果は公開する予定であるので、各大学で使って頂きたい。また、大学では著作権の話が浸透していないことから、研究会の成果として著作権に関する啓発書も公開する予定である。
著作権の帰属は特許と比べて不明確である。共同研究で開発したソフトウェアを活用するためにはソフトウェア著作権の帰属と許諾の範囲を明確にする必要がある。そのために、将来のソフトウェアの活用パターンを想定して、著作権の保護や活用の契約事項を研究会で議論した。本研究契約の成果は、カセット式で各大学の共同研究契約雛形にあてはめることを想定している。
ソフトウェア技術移転の仕組み作りとは、ユーザーのニーズを開発に取り込む仕組みを整備することである。ニーズは、オープンソース、ソフトウェアリポジトリ、共同研究・コンソーシアムから収集する。ソフトウェア技術移転の発展の形は、1.共同研究での企業(へビーユーザ)の利用、2.企業から大学へのフィードバック、3.二番手の企業(ポテンシャルユーザ)の利用によるコミュニティ(=将来の市場)の拡大、4.ベンチャー、ベンダーによる商品化、である。
研究会で議論した事項として、共同著作者の特定の問題や、各大学の著作物取扱規程における職務著作の範囲の違いに契約雛形をどう対応させるか等の問題があった。今後は、コンソーシアム型共同研究契約雛形、オープンソースの取り扱い、文系ソフトウェアの取り扱いについて検討したい。
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【4.「ソフトウェア著作権を考慮した共同研究契約雛形の作成」】
光和総合法律事務所 弁護士 竹岡 八重子氏
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大学のソフトウェアの知恵を企業に活かし、還元することは国の課題である。特に、大学・企業間で生まれたソフトウェアというのは非常に高度な技術的著作物であり、それを著作権法で扱うといろいろなところで問題が生じるが、それを修正してどうやってマネージするかが重要である。
共同著作物は、共有者全員の合意がないと、利用もライセンスも譲渡も出来ない。これが特許と著作権の根本的な違いである。著作権法における共有の不自由さを避けるために、むやみに共有にすることはお互い避ける、それでも共有が発生した場合には、ある程度の段階まではお互いに自由の範囲を確保しておくために、できたら共同研究契約の中に自由の範囲を書いておくといった方策が必要である。
研究成果物であるソフトウェアの著作権は、ソースコードを書いた側に帰属する。アルゴリズムを思いついた側や、仕様やプロトコルなどのアイディアを出した側の貢献は、一切、法律は考慮してくれない。通常のソフトウェアであればそれで問題はないが、大学と企業のソフトウェアはアルゴリズムレベルのアイディアが重要で、そこに研究の肝があるため、この著作権法の分担について考えなければいけない。
特許の場合は、請求項があり特許が及ぶ範囲が明確である。一方著作権の場合は、少々の改変をした程度ならば著作権者は原著作者Aであり、創作性を加えて二次的著作物となった場合には改変したBが著作権者となるが利用にはAの許諾が必要となり、原著作物の本質的な特徴を失うほど改変した場合には著作権者はBとなりAの権利はまったく及ばなくなる。問題は、「少々の改変」がどのくらいなのか、「創作性を加えたかどうか」というのは何か、「本質的な特徴を失ったかどうか」とは何かということは法律のどこにも書いておらず、判例もないということである。また、結合プログラムの1個の成立単位であるモジュールに関しても、「モジュールはどの程度のものなのか?」もわからない。そのため、共同研究契約の終了時、共有のソフトウェアの場合で実施について話し合う時など大きな節目ごとに確認・合意をお互いにすることが重要である。結合プログラムの場合にモジュールの議論はあまりしたくないので、その議論をせずに済むような契約にしなければいけない。
ソフトウェアは、プロトタイプに対して改変を繰り返して最後に製品になる場合がある。製品になる途中のプロトタイプは捨てられてしまう可能性があるソフトウェアで、それらのソフトウェアを全部管理することはできないので、重要なリスク(重要なプログラム)を洗い出し、優先度の高い順番に管理することが大学のソフトウェア管理の発想になる。共同研究の成果物は大学帰属とするという規定を持っている大学は、その取り扱いを共同研究契約に定めておけばいいが、個人帰属にするとなっている大学は研究者個人が著作者人格権あるいは共有著作権を持っている企業の利用を制限する権利を控えてもらう考慮というのが必要になってくる。
ソフトウェアが成果物となる場合の大学と企業の共同研究に必要な視点は、「自由(freedom)、公平(fairness)の2つを両立させる」、「技術移転の促進」、「マネジメントしやすいものにする」である。大学の実務からすると、ソフトウェア著作権をわかっている方が少ないため、共同研究契約の特許の内容とかけ離れてしまうと、大学側としてはマネージができない恐れがある。この研究会で提案する雛形は、初めの一歩としての雛形である。ここで各大学がいろんな経験を積んでいただいて、いろんなバリエーションを各大学が持って頂ければと思っている。従来からある大学の共同研究契約の雛形にカセット式で埋め込めるようにという発想で雛形を作成した。
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【5.報 告2(15:20~15:50)】
「九州工業大学における著作権研究会の成果」 ( 資料PDF)
九州工業大学 情報工学研究院 教授 吉田 隆一
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九州工業大学において著作権研究会を開催している。本日の講演の目的は、ソフトウェアの有効利用のために、著作者と著作権の帰属の問題について報告する。
研究成果はこれまで、学会発表で公表するのが主であった。しかし、創造された「知」をもっと社会に還元する必要がある。研究成果を有効活用のために、「産業界への技術移転の一環」、「学内外での学術利用」、大学におけるソフトウェアの有効利用、著作権管理のモデル作りがソフトウェア著作権研究会の目的である。研究会では、プログラム、データベース(付属文書を含む)を対象としている。
権利の帰属に関して「大学か個人かという問題」、「学生の問題」がある。また、ソフトウェアの利活用のためのリスク管理として、誰が作成したかソフトウェアをきちんと管理する必要がある。ソフトウェアの特殊性として、特許と比較した場合、ソフトウェアの手離れが悪くメンテナンスが必要な点、登録によらずに権利が発生し、大学の把握が困難である点がある。
権利を法人帰属にする場合には、権利者が多数いた場合に一本化しておき、権利関係を明確化しておける点、教員が異動する場合の研究の継続性、リスクを法人で専門家が責任を持って対処してくれる点、研究経費の問題の点、でメリットがある。権利を個人帰属にする場合には、メンテナンスへの対応が可能、研究者の開発意欲の維持、研究継続性にメリットがある。ソフトウェアの権利を対外的には法人にし、研究利用に関する権利を個人に残す方法を考えた。
法人著作の範囲は、業務命令あるいはそれに準ずるもの、特別に措置された経費によるもの(公的競争資金、学内競争的資金等)としている。しかし、法人著作でも、研究者個人の権利として、研究利用の自由、研究者が第三者への利用許諾を希望する場合大学・個人は相互に協力すること、個人が起業する場合大学は特別の措置を講ずること、特許に準ずる報奨金を考慮する。その他の場合は個人著作としているが、著作権を大学へ譲渡・活用の委託は可能としている。また、収益を得る場合は大学に譲渡することとしている。
学生の関与は大学では不可欠であり、また、教育的な価値を持つので学生を排除することはできない。教員からの開発テーマ、アイディア、アドバイスは著作権では保護されない、学生は雇用者でない点が問題となるが、大学は著作権を確保したい。学生に技術移転の権利関係の明確化、法的問題を曖昧に扱うことは教育上好ましくないため、きちんと教育する必要がある。
学生の問題への対処については、著作者を大学または研究室等にする、使用について広く認める、著作権法15条2項の解釈拡大による運用が考えられる。そのため、学内規則に学生から著作権の譲渡を受けることが出来る旨の記載、学生への説明会等での周知、同意書、収益の配分、同意しない学生への対応が必要となる。
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【6.報 告3】
「事例集研究会の取り組み」 ( 資料PDF)
電気通信大学 産学官連携センター 特任教授 堀 建二
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「柔軟且つ合理的な共同研究契約交渉を進めるための参考事例集の整備に関する調査研究会」を開催したのでその内容について報告する。研究会では、13大学と知的財産協会のライセンス委員会のメンバーを中心とした15企業の方に集まって頂き、研究会を3回、ワーキングを1回開催したが、その他に、メール、Googleドキュメントを使用して議論した。現在も引き続き議論を行っており、その成果を報告書としてまとめる。研究会では、まず既存の雛形とその解説、及び交渉事例を収集し、次に新たに今後の契約交渉に関する提案を研究会メンバーから募り、それに対する意見を交換した。
「大学(知財)と企業(知財)はなぜもめるのか」については、大学知的財産部門が縮小され、経験者が少なくなっており、企業でも知財部門を縮小されているのが一因ではないかと感じている。総合大学では各部局で職員の定期的配転があり、知財の知識や経験が十分でない職員が扱う割合が多くなった点も原因の一つと考えている。価値不明な発明を対象として、お互いに不毛な議論を止めるにはどうしたらよいか。知財同士の交渉ではどうしても知財条項に拘泥してしまい、知財が入るから縺れるということもある。企業と企業間の交渉では、知財部門同士がお互いをよく知っている関係にあることが多いが、大学と企業間の交渉では、研究者同士は緊密である一方、大学の知財部門と企業の知財部門は初対面で、相手の理解が十分ではないことが多い。
研究会では、まず既存の雛形とその解説を収集した。非公開、未公開のものは議論のために研究会メンバーだけに提示し、解説は組織(主に大学)内部向け解説、および組織外(共同研究相手)向けの解説を収集した。研究会の総意としての契約書雛形を纏めることはしないため、雛形は参考までに収集しただけである。交渉事例では、68事例を提出して頂いたが、研究会メンバーからいくつかの問題点が指摘された。そこで、共同研究契約の知的財産取扱いに関する提案を新たに集めることにした結果、約50の提案を頂いた。
大学・企業の研究者が共同研究をやり易い体制・契約が重要で、共同研究立ち上げを遅らすのは言語道断であり、捕らぬ狸の皮算用をしなくて済む仕組み、知財担当者が関与しなくて済む契約、経験の少ない担当者が事務的に処理できる契約が必要である。
研究会で収集した交渉事例集と提案集は、報告書としてネット上に公開する。
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【7.「今後の共同研究契約交渉の方向と期待」】
【企業から】 ( 資料PDF)
鹿島建設株式会社 知的財産部 ライセンスグループ長 櫻井 克己氏
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大学企業間の契約交渉は双方不満を抱えている中でどうするか、企業側の話をする。
共同研究契約の交渉についての企業側のスタンスは、全く同じ事案はないので、事案ごとに柔軟に対応してほしいと考えている。出願費用は持ち分に応じて負担頂きたいと考えているが、現状ではそのようになっていない。
研究会参加に際しての企業側の趣旨は、雛形での契約では良い契約(関係)はできないため、雛形を作成することには反対との前提で参加させて頂いた。柔軟性を広げて頂くことが参加した趣旨である。意見での部分はメールでの対応が多かったため、大学側からの意見がやや多い印象があった。
出された提言には、「1.出願維持管理費用負担は企業に」、「2.大学発明の持分譲渡を企業に行い対価を受領したい」、「3.大学発明者からの訴訟リスクにも対応できるように企業に協力して欲しい」が挙げられた。共有の場合は「いわゆる不実施補償料」の要求も感じた。
研究会で浮かび上がってきたことを整理すると、一つは、「特許の持分譲渡も、今まで行われてきた以上に、知的財産の取扱いバリエーションの一つとして検討されるであろう」ということである。出願費用の関係の問題、不実施補償の問題、これに加えて、持分譲渡の選択肢も新たに入ってくる可能性がある。二つめは、「大学所有の知財関連の予算・人の問題が厳しくなる」点である。出願費用が捻出できないとの話が出てきている。現在の組織を充実させるのが厳しいというのが、研究会の中での議論でも浮かび上がってきている。予算が削減されるということが、結果的に省力化してパターンで進めるということにつながり、交渉力の不足が想像される。大学側は省力化して対応したい、企業は事案に即した契約を望むことになり、契約交渉は今後も難航が予想される。
特許の活用についての誤解について触れる。特許は第三者の実施を排除するために保有するもので、自社以外が特許を保有する場合には、特許を回避して実施するのが自然な流れであり、大学の知的財産権取得は、実用化による「社会への貢献」とは合致しない側面がある。
今後については、大学が特許出願を行う意味を再考してもよい時期になったのではと感じている。国立大学法人化以前の取扱いも検討に値する。産学連携の成果も日本版バイドールの考え方に準じて、成果の知的財産権は企業に委ねるのも一つの模索ではないか。
補足であるが、今回の研究会でも大学が権利を持つ必要性は低い事が浮かび上がっている。今までは、知的財産の取扱いをクローズアップさせすぎてきたきらいがあるかと思うので、産学連携による教育・研究の機能を優先して進めるべきと感じる。特許を企業帰属とすることは、産学連携の推進につながり、また、経済の活性化の促進にも資すると考える。
産学連携を推進する視点から、知的財産権の取扱いが却って弊害にならないような施策をお願いしたい。大学は論文・学会発表を基軸に、特許の出願は企業に集約する流れができないかと思う。大学は社会の基盤で、大学の活性化なくして、社会の発展はないと考える。今後も、日本の社会に合致した日本の産学連携モデルを模索してゆくべきと考えている。
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【大学から】 ( 資料PDF)
東京大学 産学連携本部 知的財産部 知的財産統括主幹 峯崎 裕氏
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事例研究会で印象に残った事例・提案を三つあげる。一番目は、雛形で、東北大、電通大のように複数のオプション選択肢から選べるようにした方式では、ほとんど交渉しないで雛形通りで、柔軟かつ合理的なフレームワークの一つになると思う。二番目は、共同出願の時で、大学は特許出願費用を負担しにくく、企業側に負担して頂くが、その場合に、収入の配分比率を多めに配分する点が、大学が譲れる範囲であると思う。三番目は、譲渡について、譲渡対価の決め方である。譲渡対価の決め方が難しい、後で大化けした場合にどうするかという点から大学が譲渡に消極的である。一定額の譲渡金と実績補償金、産学連携奨励金のように、2段階で評価するのが適切だと思う。
議論自体は産官学で継続していく必要があると思う。その際に、三つのポイントがあると思い、掲げてみた。一つ目は、「企業が大学と安心して共同研究に取り組める条件になっているかという視点」である。これが欠落しているという気がしてならない。この視点は企業の方から議論が出ているが、企業には研究支援経費等を出して頂いているし、秘密条項、企業の課題、ニーズの情報を得た状態で共同研究を進めているので、このような貢献をきちんと理解して通常のライセンスとは違うという明確な意識を持っていかないと、産学連携が今後うまくいかない可能性が出てしまう。大学側が心すべき点だと考える。
二つ目は、「大学の発明者に発明創出・実施化のための適切なインセンティブを付与するという視点」、が特に先生方で欠落している。産学連携ということで、発明をしたものが権利化・実施されるところまで持っていくのが本来の産学連携だと思うが、大学だけでなく企業側から見ても非常に重要な視点だと思う。先生と話をする機会があるが、先生方も、研究成果はお金になるよりも製品になって出ていくことを期待しているところがあるので、この視点を忘れないで頂きたい。補償ではなくて報奨という視点が必要になると思う。
三つ目は、「国際的な視点 アメリカよりヨーロッパを参考に」である。アメリカを思い浮かべがちだが、ヨーロッパも参考にするというのが私個人の感想である。ヨーロッパは法人化が日本より数年先に行われた。今年の1月にヨーロッパ(スイスの二つの大学、ドイツの大学1つ)の三つの大学を訪問する機会があり、スイスの二つの大学では、間接費を20%あるいは35%を余分に支払うと、共同研究の成果についてはパートナー企業に無償で譲渡するような話があった。「IPサーチャージ」のようなもので取り扱いを区別している。ドイツでは、発明者補償の規程が法律で雁字搦めに規定されている国で、パートナー企業との関係を損なわないように譲渡をしているようである。基本的に譲渡契約のうち8割方が一時金のみ、残りの2割が一時金と正味販売価格の何パーセントという形で契約しているようである。先ほど、二段階の話があったが、欧米でもそのようになっているようである。
今後への期待は、個別交渉の必要のない「柔軟かつ合理的な共同研究契約スキームの構築」を期待したいと考えている。基本的には、納得性の高い複数のソリューションを用意して、条件をあらかじめ明示して、リスクの見える化をして選択できるようにする。譲渡一辺倒というのはあまりにも硬直化しすぎだと思うので、選択式が良いと思う。交渉にはそれなりのスキルと経験、勘、知恵が必要なので、大学の職員でもできるような事務処理に変えられたら良いと考える。それが、自立化、産学連携の成功へのカギになると思う。期待しても誰もやってくれないので、意識を持った人が自分で取り組まなければならない。
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【17:20~17:30 閉会挨拶】
九州工業大学産学連携推進センター長 鹿毛浩之
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九州工業大学では今年度、100周年を迎えた。九州工業大学は安川電機が私財を投げ打って作られた学校が国立に移管された学校である。企業からという大学であるので、産学連携活動を大学の特徴として参りたい。また、24年前に日本で初めて情報工学部を設立した関係で、ソフトウェアにも興味を持っている。以上が、産学連携戦略展開事業に採択頂いて、その中身であるソフトウェアの著作権問題を扱った経緯である。1年半の間、月に1回の研究会を開催し、その成果の一部を中間発表の形でご報告した。
平成22年度のイノベーションシステム整備事業で、大学等産学官連携自立化促進プログラム【コーディネーター支援型】に採択を頂いた。従来型のコーディネーターの支援事業であるが、ソフトウェアの研究会の成果を入れ、コーディネイトし学生の技術移転の理解を考え、意欲的に新しい形の産学連携を提案し、採択頂いた。新しい形のコーディネーターを育てていきたい意味もある。コーディネーター事業と戦略展開事業を両輪として、これからも進めていきたいと考えているので、ご支援いただきたい。また、成果が出た際に報告をさせて頂ければと思う。
※上記文章は、各講演者の講演内容をもとにその趣旨を作成しましたが、
講演内容をわかりやすくために、その一部に修正を加えた箇所がございます。
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